浅瀬でぱちゃぱちゃ日和

全部日記です。大学院でいろいろやってました。今もなんだかんだ大学にいます。

真に対等な存在とは......:読書記録#4 小西一禎『妻に稼がれる夫のジレンマ』(2024,ちくま新書)*ベルセルクも読んでます

 

しばらくサボっててすみませんでした。

 

というわけで、読書記録やっていきます。5月、初夏ですね、皆さん!! 生きることって素晴らしいんだなと感じさせる天気が続いています。そんなことないですか? 外でフリスビーでも投げて遊んでいたい季節ですが、読書記録、頑張っていきます。

今回は2ヶ月振りの更新となりました。本自体は3月に読み終わっていたもので、ずばり、小西一禎『妻に稼がれる夫のジレンマ ─共働き夫婦の性別役割意識をめぐって』となります。内容の紹介や、読んだ感想を軽く書いていきます。

 

読んだきっかけ

本書は京都の某後輩氏からご紹介いただきました。ありがとうございます。いつも大変お世話になっております。

その某後輩がたまに言っていることで、あと大学時代の同期なども度々言っていたことですが、ヒモになりたいという男性側の願望をたまに耳にします。皆さん、ヒモ、なりたいですか??

僕はこれが(冗談というのは分かりつつも)正直よくわからず、ヒモは自分の力で生活を立てられないからかなり不安定じゃないか? と思ったりします。働かずに生きていけるのが魅力的、ということかもしれないけれど、生殺与奪の権を誰かに握られているようで落ち着かないな〜〜と思ってしまいます。まあ25歳まで親のスネかじりしていた人間のセリフではないかもしれませんが......

反面、自分の稼ぎがそんなに多くないので、もし誰かと一緒に暮らすとなったら、共働きであってくれたら嬉しいなと感じます。二人分の生活を支えるような財力は無いため..... そんなわけで今は、「できるだけ相手の稼ぎに依存したくない」という気持ちと、「自分の稼ぎがそこまで多くないので、『収入については俺に任せておけよ』とも言えない」という両方の気持ちがあり、これがある意味ジレンマを形成しています。その前に一緒に暮らせる相手がいねえんだからジレンマも何もないだろというツッコミはありますが......

で、何が言いたいかというと、今回取り上げる「妻に稼がれる夫のジレンマ」というのは、僕のような状況の人間だと結構感じる可能性があるんじゃないか? ということです。この世界の僕が感じていなくても、パラレルワールドで既婚者となった自分ならもしかしたら感じるかもしれないという問題意識を持って臨みました。マルチバース万歳!!!

 

内容紹介

本書は著者の修士論文をベースに、それを書籍化したものとなっております。著者は元々政治記者をしていたそうですが、妻の海外赴任に伴い、キャリアを中断して妻と一緒にアメリカへ行ったとのこと。その際に、現地で「駐妻」ならぬ「駐夫」、つまり専業主夫を経験し、「妻に稼がれる夫」の立場を経験したとのことです。

で、現状の日本社会には「男はバリバリ働いて家庭を支えるべし」「妻に稼いでもらってるなんて恥ずかしい」「ヒモみてえなもんじゃねえか」という価値観がまだまだ存在しています(なんてこった)。そういった日本の労働観やジェンダー観のもとで、「妻に稼がれる夫の立場」というものに、どのようなジレンマや苦境があるのか、それを明らかにしたのが本書です。インタビュー調査やその分析を通して、当事者たちの生の声をできるだけ拾っているところが特徴と思います。

一箇所、冒頭から本書の目指しているところを引用しておくと、

本書では、妻の海外赴任に同行した駐夫経験者一〇人のインタビューから、彼らの意識変容や就業行動、キャリア設計に向けた道筋を浮き彫りにする。ここから男性優位が指摘される企業文化が根強く残る日本社会で、男性がキャリアを一時的にセーブして女性を支えるという新たな夫婦像やキャリア形成観を示したい。さらに、「男は仕事、女は仕事と家事・育児」という硬直的な性別役割を交換した、多様な家族形態を紹介する。
小西一禎. 妻に稼がれる夫のジレンマ 共働き夫婦の性別役割意識をめぐって (ちくま新書) (Kindle の位置No.163-167). Kindle 版. 

という形で、「新たな夫婦像やキャリア形成観」を示すのが本書の狙いとなっています。単に当事者の声を載せるだけではなく、そこから在るべき社会像まで論じているのも、本書の大きな特徴かと思います。

 

読んだ感想

当事者男性へのインタビューパートが、特に読んでいて面白かったです。

本書の前半は、主に「男性の生きづらさ」に焦点を当てたものとなっています。今となっては結構見慣れた議論ですが、フェミニズムが「女性の生きづらさ」を訴えたときに、特にここ5年ぐらい? で「男にも男の大変さ・生きづらさがある」ということが盛んに言われるようになりました。従来のジェンダー論を引き継いで、「女性の生きづらさと男性の生きづらさ、どちらも根本の問題は一緒だから、ともに『らしさ』から解法される社会を目指そう」という路線もあれば、「いや、女性よりも男性の方が優位に大変で、フェミはこんなにも嘘つきだ」という敵対路線も存在していると思います(後者はTwitterで盛んでしたが、今もそうなんでしょうか)

本書はこのうち、完全に前者の立場です(安心した)。例えば、多賀太『男らしさの社会学』が引用され、次のようなことが言われています。すなわち、「稼得能力」なるものが男性らしさを構成しており、稼ぐことをやめた人間は「男から降りた」と見做され、それが生きづらさに繋がっているといったことですKindle版 p46)。これは男性学系のものではよく見かける見解と思います。で、前述の通り、本書では男性にとっても女性にとっても生きやすい社会を目指していくので、この点は読んでいて安心感があります。単に男側の怨嗟を振り撒くものではないんだなと。

ただ、逆に言えば、安心感があるということは「聞き慣れた話だなあ」ともなるわけで、序盤はかなり知っている話を聞かされている感があります。既存の学説への批判もそんなになく、まあ男性学ではそういうことが言われてるよね〜という感じです(逆に、今まであまりジェンダー論に触れたことの無い人にとっては、いい入門になるかもしれません)。ので、個人的には、この辺のジェンダー論や社会分析よりも、実際に当事者の声を拾ったインタビューパートが見どころだと感じました。

 

インタビューパートの見どころ

個人的に面白かったのが、「妻に稼がれている」という状況に対して、男性側が感じるモヤモヤとそこへの付き合い方についてです。今の日本社会には「男の方こそ稼ぐべき」という価値観があると、本書では繰り返し主張されます。

「男は稼いでナンボ」
こうした価値観が、日本社会には根深く残っている。男の力の源泉は経済力であって、稼得能力の高さこそ、男の象徴だという見方だ。Kindle版 p159)

こうした風潮の中で、稼得能力が妻に劣る男性は、どのような気持ちを抱えているのか? 本書で紹介されているものとして、「卑屈に感じた」「おんぶに抱っこだ」Kindle版 p78)といった意見のほか、「格好悪いじゃないですか、シンプルに妻との関係で世間体とかじゃないんです」Kindle版 p128)といった声も挙がっています。この意見、かっこいいなと思いました。そしてやはり、何らかの劣等感を挙げている人が多いです。

で、その劣等感とどう折り合いを付けるか、という問題ですが、一つ面白かったのが、妻が稼ぐことで、結局は自分も経済的恩恵を受けているという考えですKindle版 p118)。普通に考えれば、妻が稼げば世帯の収入が増えるわけで、夫が悲しむ理由はないんですよね(そりゃそうだ)。こういう、ある意味合理的というか、思い込みやプライドからいったん離れて、客観的に自分の得を考えるというのは面白い対処法だなと感じました。

もうひとつ面白かったのが(これが今日の本題となりますが)、逆に燃えるというパターンです。先ほどの経済的恩恵とは別に、妻が頑張っている姿を目にすることで、むしろ「自分ももっと頑張らねば」と対抗意識が芽生えるというもの。以下のような声が挙げられています。

良い焦りですよね。自分も頑張らなければいけないというか。うかうかしていると、しっかり努力しないと、置いていかれるというか。(Kindle版 p127)

このように、妻を「緊張感のあるライバル」としてする見方、個人的に非常によいなと感じます。単に相手を庇護しようとか家庭に閉じ込めようとするのではなく、むしろ自分に刺激を与えてくれるような、同じ一社会人としてよい焦りをくれる存在として捉えるのは、なんというか、フェチです。いいな〜〜と思います。欲を言うなら僕もこういうパートナーが欲しいですね。「相手が夢に向かって頑張っていることで、自分も頑張れるんだ」とか、そういう...... なんか....... いいよね......

 

真に対等な友とは......

すみません、めちゃくちゃ唐突なんですが、ベルセルクの話をします。

www.famitsu.com

実は本書を読んでいた3月、ベルセルクが公式で14巻まで無料で読めまして、めちゃくちゃ面白かったです。今は30巻ぐらいまで読んだ。個人的にはピーカフの話が結構好きですね。まだ読んでいないという人は、ぜひ快活に行って13巻まで読んでみて...... あるいはNetflixにあるアニメ版だけでもよいと思います。

で、ベルセルクの大きなテーマとしては、1つに男の生き様とは何かということと、もうひとつに真に対等な友とは何かというのがあるように思います。ちょっとこれについて語ります。

一つ目については作中でグリフィスも語っていました。「男は何かを守るために剣を振るう。ただ、その守るべきものというのは他人だとは限らない。何よりも男は、誰のためでもない夢のために、自分が自身のために成す夢のために戦うのだ」と(手元にないので曖昧引用)。男は夢という神への殉教者なのだと、そういうことも言っていたと思います。僕は「夢を持つこと」フェチなので、この辺は痺れました。男は夢という理想のために戦います。

もうひとつ、真の友とは何か? ということも、ここで同時に語られています。グリフィスにとって真の友とは、「己の夢のためなら、自分に刃向かうことも厭わない、そんな対等な存在」として語られています。グリフィスは作中で超人気者なので、皆グリフィスに付いていくぜ〜〜というノリであり、仲間内では誰も彼に刃向かったりしません。ので、グリフィスが自身の夢を語っても、皆それに乗っかるばかりで、「いや、俺には俺の夢がある、俺はお前とは別の道を往くぜ」となるような、対等な存在がいないのです。グリフィスにとって真の友とは、単に自分に追従するのではなく、むしろ時に自分に反抗し、ライバルのようにしのぎを削れる存在として描かれています。

この話をこっそり聞いていたガッツが、「俺は誰の夢にもぶら下がらない」と決意を固めていくの、よいですよね〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜。対等な友であるために、相手の夢に縋るのではなく、自分自身の夢を抱いて、あえて別の道を進んでいくわけです。この、他人が掲げた夢に追従しない姿勢が、夢フェチとしてはかなり好きなところです。僕もそのような姿を目指している。

はい、ベルセルク全然知らんという人を置き去りにしていて本当にすみません........

 

話戻って(今後の夫婦像とは)

大脱線してすみませんでした、、、話を本書に戻しますが、このベルセルクの姿勢こそ、今後の夫婦やカップルに求められるような気がします。どういうこと???

本書では冒頭で、「今後はますます女性の社会進出が進むはずだから、妻に稼がれる夫というのも増えていくのでは」ということが指摘されています。一応引用。

女性の社会進出が一段と進むことによって、妻が収入や社会的地位で夫を上回るカップルは、ますます増えていくと考えるのが自然だろう。こうした状況に苦しむ二人の姿は、この先の日本人男性を取り巻く状況の未来予想図になるのではないだろうか。Kindle版 p14)

まあ実際のところは厳然たる男女間の賃金格差がまだまだ存在してるわけですが.......

そうした中で、「相手より自分が稼いでいなきゃならない」という見方を保持し続けることには、早々に無理が生じるように思います。更に言えば、そこで自分がもっと稼ごうとするのであればまだしも、相手に仕事をさせなかったり、家に閉じ込めようとするのはもはや論外ということで、ベルセルク理論で言うと(言わなくても)「全く対等ではない」ということになると思います。

で、本書では「妻の海外赴任に、キャリアを中断してまで同伴した夫」の姿が紹介されておりました。もちろんそこで提示されているのは、ただ単に妻に付いていき、ヒモのように養ってもらう存在ではなく、家事や育児を担当し、キャリア中断に葛藤を抱えるような男性たちです。こういった「相手の夢と対等に向き合う」というところに、これからの夫婦像があるのかもしれません。一方が会社で稼ぎ、もう一方が家で家事育児をするような従来のモデルを離れて、お互いが自己実現を果たしつつも、相手の夢に対しても「対等に」向き合うような...... そんな社会が訪れたらよいなと思いますなぜなら夢フェチだから)。 

その点で言うと、本書では「夫婦同姓・育休が、女性にばかり負担を負わせている」という問題も指摘されており、そこも個人的にはよかったです。しかも、その点を実際に育児を経験した男性(妻に稼がれた男性)側が指摘しているというのも印象的でした。以下、本書で挙げられてた声を2点引用。

名字というものに対する、女性の気持ちが痛いほどよく分かりました。やっぱりね、屈辱感があったんですよ、自分の名字を変えるっていうことが。名字を変えなければならないということは、アイデンティティーを失うなど、本人の気持ちだけの問題ではありません。そうではなくて、これをほぼ女性のみに強いているこの社会がおかしいと思います。Kindle版 p147)

ずるいですよね。育休を女性に取らせて、自分だけバリバリ働き続ける人って、ずるいと思う。そうじゃないですか。育児にかかわる社会的コストを、その女性がいる企業だけに負わせるわけですよね。その一方で、男性のキャリアばかりがうまくいくというのは、すごくずるいと思います。Kindle版 p132)

これも本当に、全く対等じゃなくてよくないよなと感じます。こうした社会的な不公正が、「稼がれる男性」というマイノリティー側に陥った立場からの、リアルな声として発せられているというのは、本書の大きなポイントだと思います。興味を持った方は是非読んでみてください!!!

最後にちょっと批判的なことも述べると....... 本書は3・4・5章で男性へのインタビューを紹介しており、続く6・7章は、それを受けての社会への提言という感じなんですが、この6・7章については正直微妙....... という感じです。これからの社会はこうあるべきだと言うことが論じられるわけですが、全体的にふわっとした理想論が並べられている印象があり、「まあその辺のことはみんな既に言ってるよな〜〜」と感じました。序盤のジェンダー論についても同じ印象だったので、やはり本書は、インタビュー調査をまとめた3・4・5章のあたりが面白いなという感じです。

あと、著者の小西氏は、海外駐在から戻ったあとに大学院に進み、修論として本書の骨格部分を執筆したというのだから、その辺は本当にすごいなと思いました。僕も社会人2年目となりましたが、このように「新しいスタートを切る」ということには本当に憧れます(そのテーマでも近々書くつもり)。僕も僕自身の夢のために、時に刃向かう者を切り捨てながら頑張っていこうと思います、、、

*でも逆に言うと、夫婦間は「何千の味方、何万の敵の中で、唯一夢を忘れさせるような」関係であってもいいのかもしれないですね。書いた後で思いました。どうでしょう??

 

 

以上!!!

と言うわけで、今回は読書記録第4弾でした。いかがだったでしょうか。微妙だったらすみません。

本当は読書記録、もっとコンパクトに書きたいと思っています(今回6500字近くある)。でもオチをどうしようとか展開をどうしようとか考えているとどうしてもこれぐらいの長さに、、、次回以降は何かしら工夫をしたいとは考えています。

最後に、次回の案内ですが、皆さんは「正義」と「嫉妬」はどのような関係にあると考えているでしょうか? そんな本を扱う予定です。乞うご期待!!!