浅瀬でぱちゃぱちゃ日和

全部日記です。大学院でいろいろやってました。今もなんだかんだ大学にいます。

俺も社会貢献を頑張る:読書記録#1 小宮位之『「無料塾」という生き方』(2023)

どもども。寒い日が続きますが皆さまいかがお過ごしでしょうか。

この間、2024年のブログ目標として、一冊一冊の読書記録をちゃんと作成するということを掲げました。詳しくは↓の記事を参照。公式から謎にピックアップされたのでたくさん星が付いている......

betweeeeeen.hateblo.jp

ので、この度は読書記録、頑張っていきたいと思います。

第一弾ということもあり、今回はあまり気合いを入れすぎずに、サクッと書きます。

 

読んだ本

小宮 位之『「無料塾」という生き方』(2023、ソシム社)

 

読んだきっかけ

以前、2023年の振り返り記事を書いたときに、「今後はもっと、ボランティア等の社会貢献活動にも関わっていきたい」ということをぼやきました。ただ、ボランティアと言っても、どのようなものがあるだろうかと考えていた時に、Twitterで流れてきた「無料塾」というワードが目に止まりました。僕の職場は副業が禁止されておりますが、同期でも無償ボランティアとして塾を手伝っている人がおり、この無料塾というものに興味を持ちました。で、Kindleで検索して、この本を買って読んでみたという流れ。

本当はちくま新書の『ルポ 無料塾』の方が先に目に止まっていたのだが、あまり確認せずにこっちを買ってしまっていたというのは内緒。

 

内容紹介(ごく簡単に)

この本の著者は、八王子つばめ塾という無料塾を実際に立ち上げ運営している人。2012年のスタート以来、かれこれ10年以上教室を続けている。著者の小宮さんは、研究者や教育専門家というわけではなく、普通にサラリーマン(映像制作の仕事)をやっていたのを退職して無料塾の運営に携わっている。すごすぎる。

本書は4つの章から成っていて、ざっくりと内容を書くと、

  1. 無料塾とは何なのか??
  2. なぜ著者の小宮さんは無料塾を立ち上げたのか?
  3. 社会支援活動の重要性
  4. 無料塾を始めたい人へのノウハウ

という形になっています。全体的に、無料塾を10年続けてきた著者がこれまでの歩みを振り返りつつ、貧困・格差といったものへの社会的な支援がいかに重要かを語ると言った内容となっています。

 

感想

ここからは、内容紹介も少し兼ねつつ、本書を読んだ感想を書いていきます。

支援の対象者は「やる気を持っている」中高生

第1章「学習支援ボランティア『無料塾』とは」の冒頭にて、著者は自身の塾への入塾要件について、次のように書いています。

八王子つばめ塾に生徒が入塾するには、次に掲げる3つの条件があります。

・ご家庭が経済的に困難であること

・ほかの有料塾、家庭教師に習っていないこと

・本人に勉強をする気があること

この3つの条件をすべて満たさないと、入塾はできません。

小宮位之. 「無料塾」という生き方  教えているのは、希望。 (pp.13-14). Kindle 版. (太字は引用者以下同じ)

で、この箇所は読んでいて早速「おぉっ」と思いました。1つ目、2つ目は当然分かるとして、3つ目に生徒のやる気も求めるのだなと。続く文章でも「やる気のない生徒は来てくれるな」ということがはっきりと書かれています。

実は僕も以前、学部生の時に4年間塾講師をしていたことがありました。個別指導塾で、大抵こういうのは生徒2、先生1で教えるものなのに、たまに生徒4、先生1で教えたりしていた。で、この塾というのは、頑張って進学校を目指そうと言うものでは全くなく、小学生なら、なんとか夏休みの宿題を自分でやりきるようにしよう、中高生なら、頑張って定期テストで平均点を取ろうといった感じでした(月謝も安めだったらしい)。で、逆に言えば、「宿題もまともにやらない」「勉強が嫌いで嫌いで仕方ない」「やる気なんて一ミリも無い」系の顧客生徒が集まってくるわけです。

そんな中で、我々アルバイター講師が社員から言われたことは、「とにかく生徒のやる気を引き出すこと」「話を聞いてあげること」でした。やる気が沸かない・勉強ができない・宿題をやってこないというのはある程度当然として、まあそれでも最低限はできるように頑張りましょうという感じです。

......全然関係ない話ですが、この塾バイトにて、本当に勉強が嫌いな中学1年生男児を受け持ったことがありました。そのとき数学の「場合の数」を教えようとして、「トランプって4つのマークがあって、それが13枚ずつあるわけだから、全部で何通りある?」という質問を出したところ、「トランプって何?」という回答が返ってきました。いやいやそういうボケはいいからと切れ気味で返したところ、割とガチで分からなかったらしく、お互いに「どうすんだこの空気......」となりました。ちなみにこの生徒はサイコロの場合の数を聞いたときも9と答えた。脱線終わり。

話戻って、無料塾の入塾要件に「生徒のやる気」を求めるのはちょっと意外でした。ただこれは、僕の方で勝手に、無料塾に「学習援助」的なイメージを持っていたからだと気付きました。ここでの学習援助とは、例えば学校に通えない生徒に無償で勉強を教える的なもの。ただ、この本でも説明されているとおり、八王子つばめ塾においては公立高校への入学が生徒の目標として掲げられます。つまり「学校の勉強について行ければそれでよい」というものではなく、「未来に繋がる選択肢を自分の手で掴み取ること」が目指されているというわけです。

この点について、「やる気すら抱けない人間もいる」という点は議論になるかなと思いました。自己責任論などへの反論の一種で、例えば「落ちぶれる人間は頑張ろうとすらしないことが悪い」という意見に対して、「そもそも頑張れる心を持っているかどうかについても、ある程度才能が関わっている」という見解はあると思います。僕はこの見解に対して「それは事実本当にそう」と思うところもありますが、同時に「それを言っちゃったらなあ......」と感じるところもあります。

で、本書でも自己責任論自体への反論は強く展開されています。ただ、それはあくまで、家庭の貧困などで「機会の平等」(塾に行く機会)が損なわれているという文脈で展開されており、意欲にすら不平等が生じるという話にはあまり及んでいません。本書の無料塾においては生徒のやる気を明確に求めるので、「自分の力で頑張れない人への支援」というのがどうあるべきか、本書からは離れますが少し考えました。

(ちなみに本書には次のような記述があります。まず著者が生徒にかける言葉として「君たちに『勉強したい』という熱意があるから、私や大勢の講師がここにいるのであって、君たちが勉強しないのであれば、今すぐこの塾をやめてもらってかまわない。」続けて、「八王子つばめ塾は『やる気』だけが、生徒からもらうもの、いわば『月謝』です。やる気という『月謝』を持ってこない生徒は来てくれるな、とはっきり言えるのです」(Kindle版 p16)。このあたりから「生徒が頑張れるからボランティア講師も頑張れる」とするなら、確かに勉強する気すら持てない子への支援とかはボランティアでも辛いだろうなと思いました)

 

貧困・格差への支援を誰が行うのか?

もう一点、本書で印象に残ったこととして、「個人も社会貢献活動に関わるべき」という主張があります。何か社会的な不公正・不平等が生じている時に、個人もその解決に向けて活動するべきなのだと。一箇所を引用してみます。

経済格差や教育格差をどう埋めていくべきかについては、さまざまな角度から意見があります。...(中略)...いわゆる「富の再分配」は政府にしかできないことですから、これは大いにやってもらいたいと思います。

けれども、政府にすべて任せておいて民間の私たちは何もしなくていいということでは、もちろんないと思うのです。子どもたちに勉強を無料で教えてあげることであれば、民間の私たちでも十分できることです。Kindle版 p114)

この点は僕自身、結構反省を迫られたところでした。というのも、一方で自己責任論があり「その人の苦境はその人の努力が足りなかったせい」との見解が根強い中で、もう一方で「どうにもならない苦境というものはあり、それは社会全体で解決するべきものだ」という見解もあり、僕自身は後者の方にシンパを覚えます。ただ、この後者の見解を採るときに、自然と「社会全体の問題=政府が解決するべき」という発想になっていました。つまり、誰にも責任を問えない問題だからこそ、個人に責を問うのではなく、我々の代表たる政府や行政が取り組むべきだということです。

ただ本書では、上の引用の通り、「政府にすべて任せておいて民間の私たちは何もしなくていいということでは、もちろんない」と述べられていて、確かにな〜〜〜〜〜〜〜と思いました。社会全体の課題と見なすことで、自分は特に何もしなくてよいと考える癖が自分に根付いていたなと思います。

本書では続けて、生まれながらの不平等への社会的支援の必要性について、次のように述べられています。これもよかったので本日最後の引用。

(社会的支援の必要性について)それは決して難しい理論でも理屈でもありません。学術的なデータによる検証を待つ必要もありません。効果が期待されるからやるとか、期待されないからやらないという話でもありません。『困っている人がいたら、手を差し伸べる』。ただそれだけの話ですし、それは『特定の誰かがやればいい』という話でもありません。『みんな』の話なのです。Kindle版 p153)

繰り返しになりますが、「社会全体で取り組むべき事」=「俺自身も取り組むべき事」という発想が抜けておりました。というより、こうした発想を断固として持ち、無料塾という存在を維持できている著者の小宮さんが本当にすごいな〜〜〜〜と思いました。僕も自分にできることを頑張っていきたいと思います。

 

その他、小宮さん自身の幼少期の話や、映像撮影の仕事をしていたときの衝撃の話など、印象に残ったところは多々ありますが、ここでは割愛。とりあえず本ブログでは、本書の感想として「やる気すら抱けない子どももいるとして、その者たちへの支援の形はどうなるか」「人任せにするのではなく、自分自身も関わっていくことが大事だ」といったことを挙げました。皆さんもぜひ読んでみてください!!!!

 

 

終わりに

読書感想第一弾となりましたが、意外と長くなってしまいました。

今年はこんな感じで、①読んだきっかけ、②簡単に内容紹介、③感想、という構成で、読書記録を残して行ければと思っています。

あと、本来読もうと思っていた『ルポ 無料塾』についても、いずれ読みたいと思っています。ただ話が重複しそうなんだよな......

次回は、とある少女小説の系譜を辿った新書を扱いたいと思っています。乞うご期待!!