浅瀬でぱちゃぱちゃ日和

全部日記です。大学院でいろいろやってました。今もなんだかんだ大学にいます。

よいコミュニケーションとは何なのか? を考える初夏:新書を2冊読みました

 

 

 

新卒3ヶ月目に読む本ってもうこれしかねーから!!!!

 

 

という冗談はさておき、、、(僕の職場はみんな優しくていい人です)

 

今日は読書感想になります。最近読んだ新書の感想です。

2冊読みました。

 

1冊目:村田和代『優しいコミュニケーション:思いやりの言語学』(2023,岩波新書

 

2冊目:津野香奈美『パワハラ上司を科学する』(2023,ちくま新書

 

期せずして、どちらも「コミュニケーション」関連の本となりました。『優しいコミュニケーション』は言うまでもなく、『パワハラ上司』についても、コミュニケーションに関する内容となっています。よきコミュニケーションの反対側、つまり悪しきコミュニケーションの典型として、パワハラがあるという感じですね。そんなわけで本日は、「よきコミュニケーションについて考える」回となっています。

......皆さん、「よきコミュニケーションとは何か」、日々考えておりますか? 最近はこういうのね、chatGPT師範代に聞けばスラスラと答えを出してもらえるようになりましたがね、まあ自分で考えるのも当然大事と思います。

というわけで皆さんもこの問題、一緒に考えてみてはいかがでしょうか!!

 

実際に聞いてみた。

まあぶっちゃけ、今回得られる結論も、これと大して変わらないです。

 

 

感想:村田和代『優しいコミュニケーション』

www.iwanami.co.jp

まずは村田和代『優しいコミュニケーション』から、簡単な内容紹介と感想になります。岩波新書で、2023年5月に発売された、割と最近の本です。940円+税(最近は新書も高いね!!)

 

内容紹介

......日々のコミュニケーションを観察していると、気持ちがほんわりと温かくなる、人の思いやりが垣間見える瞬間に遭遇することがあります。そんなとき、「これが優しいコミュニケーションなのかな」と感じます。そういった言葉のやりとりに、何かしらの共通点はあるのでしょうか? あるいは、どうしたら、多様な言葉のやりとりの中に「優しさ」を見つけることができるのでしょうか?(本書はじめに、i 頁)

本書は、これが「優しいコミュニケーションです」といった明確な解答を提示するものではありませんが、社会言語学のカギ概念や理論から、「優しいコミュニケーション」を考える上でのヒントやその糸口、エッセンスを見いだせるのではないかと考えます。(本書はじめに、ⅳ 頁、太字は引用者)

上の引用にあるとおり、「優しいコミュニケーション」というものについて、社会言語学の立場からアプローチするものとなっています。社会言語学って何? というのは本書の第1章で紹介されていて、引用すると、「言葉を社会との関わりで観ようとする言語学の一分野」(2頁)とされています。人々が使用する言葉について、その社会との関係から分析する...... という感じでしょうか。「『生きていることばやコミュニケーションの有様』を研究するのが『社会言語学』なのです」とも言われています(3頁)

で、そこからどう「優しいコミュニケーション」にアプローチするのかというと...... 社会言語学の先行研究で言われている理論を紹介したり、実際に会議や会話を分析した研究を紹介したり、という感じです。例えば、「ビジネス会議を始める前の雑談が、会議でのコミュニケーションにどう影響を与えたか」といった事例が紹介されるなど。こういったものを通じて、「優しいコミュニケーションって、もしかしたらこういうのかもしれんね!!」というのを探究するものとなっています。

 

キーワード① 聞き手意識

読んだ感じ、本書のキーワードは2つあるように思いました。あくまで僕の読みではという話ですが......

その一つ目が、聞き手意識です。これは本当にもうキーワード。キワキワのキワード(は?)。「聴き手を意識して話すこと」、そして「聴き手として意識すること」が繰り返されています。第3章のタイトルとか、「大事なのは『聞くこと』」ですからね。そのままですね。

コミュ力」というものについて、皆さんどう考えますか? これはしばしば、 ”伝える力” のことだと言われているように思います。うまく情報を伝達する力だとか、聴衆を引き込む力だとか......

とはいえ、本書でも言われるように、コミュニケーションのパワーとは、必ずしも話すパワーだけなのか? 否、当然「聞く力」も重要になってきます。コミュニケーションが、相手との双方向的なものである以上、当然「聞く」姿勢も大事になってきます。

学生たちが頻繁に口にするのが「コミュ力(コミュニケーション能力)つけたい」という言葉です。「じゃあ、コミュ力ってどんな能力?」と聴くと、返ってくるのはたいてい「自分の意見を相手にわかりやすく伝える力」「わかりやすく伝えるプレゼンテーションの力」「論破する力」といったように、「話し手」の視点に立った表現ばかりです。
コミュニケーションは、話し手から聞き手に伝えるという一方向的なのでしょうか?(23頁、太字は引用者以下同じ)

「コミュニケーション能力をあげたい」「相手を論破したい」「自分の意見を相手にきちんと伝えたい」という発言において、視点は自分(話し手)にありますが、逆転の発想をしてみてはいかがでしょうか? コミュニケーションは、ことばのキャッチボールです。会話相手が受け取れるボールを投げていますか? 受け手に配慮した投げ方をしていますか? 聞き手は誰なのか、聞き手が理解しやすいようにするにはどのようなボールを投げればいいのか? 皆さんの日々のコミュニケーションでは、このようなポイントを取り入れているでしょうか?(93頁)

この飲用箇所は、改めて意識すべし点だなーと思ったところです。コミュ力とは、一方的に話す力に非ず。ゆめゆめ忘れるべからず.....

こんな感じで、話し手側だけではない、「聞き手として」そして「聞き手を意識した」コミュニケーションについて説かれています。具体的にはどういうことかというと、まず聞く姿勢として、相手の表情をちゃんと見たり、相づちを打ったりとかですね。そして、聞き手を意識するということについては、しっかり相手の立場や苦境を慮った発言をする、ということが挙げられています。本書の第4章では、コロナ禍での政治家の発言を分析して、どの政治家がこうした実践をできていたが比較されているので、結構面白いです。

 

キーワード②:ファシリテーション

キーワード2つ目は、ファシリテーションと思います。「聞き手意識」については、章のタイトルになるぐらいはっきり言われていたけど、この「ファシリテーション」についてはどっちかというと隠しテーマですね。まあ隠しというか、僕が勝手にキーワードと感じたというだけの話なんですが。

ファシリテーションとは何か、というと、ザックリ言えば「話し合いや会議の在り方をデザインすること」となると思います。皆が話しやすいように場を整えたりだとか、進行の在り方を工夫したりだとか。そして、それを行う者(進行役)がファシリテーター。著者である村田さんは、地域のまちづくりワークショップなどで、このファシリテーターを務めているようで、本書はそうした視点からの分析が結構豊富です。

で、なぜこれがキーワードだと感じたかというと、このファシリテーション(会議設計)というものが、社会的実践につながりやすいからというのがあります。著者の村田さんは最初の方で、自身の研究の「社会貢献」ということについて言及しています。

筆者は、一貫して、言語・コミュニケーション研究の社会貢献というテーマに取り組んできました。実際に、現場のフィールドワークやコミュニケーションの観察、現場の方々への聴き取りも進めてきました。コミュニケーション研究を通して、人に優しいコミュニケーションのエッセンスや、価値観や利害の異なるひとたちが「共生」し、「創発」が生まれるようなコミュニケーションデザインを見いだせると考えています。(はじめに ⅴ 頁)

この他にも、研究の社会実践を志向している箇所は数多く見受けられます。

で、この「社会実装」「社会貢献」への志向というのが、本書の割と大きな特徴のように思います。単に、優しいコミュニケーションとは何だろな? と考えるだけではなく、その社会実装に向けて試行錯誤していくという、そこが個人的に、読み応えのあるところでした。かつ、その際の「社会実装の担い手」として、ファシリテーターが位置付けられているように感じたので、これをキーワードと思った次第です。

本書の最後の方では、「<つなぎ・ひきだす>ファシリテート育成プログラム」と言う者を紹介して、そのまとめとして、次のように言われています。

本プログラムの実施を通して、筆者自身が痛感したことは、コミュニケーションは双方向であるということです。「話し合い」は誰かが一方的に「話す」ために行うのではありません。「話し」「合う」のです。そして、話すこと以上に、他の参加者の意見を「きく(聞く・聴く・訊く)」ことが大切なのです。

文部科学省も、主体的・対話的で深い学びの実現を教育目標に掲げています。これからの社会を担う人材には、話し合いができる能力は必須です。市民参加のまちづくりをさらに進めていくためにも、話し合いリテラシーを身につけることが、今後ますます求められるのではないでしょうか。(162頁)

これが結構、本書のまとめそのものに近いかな、と思いました。かつ、やはり個人的には、後半部分が大事なように感じます。「話し合い」のスキルの向上を目指して、社会をよりよくしていこうということですね。そうなると、本書はより教科書的に、「よきコミュニケーションとは何か」を明示していく必要も、いずれは出てくるんだろうなあと思いました。

 

逆に難点

というわけで、ここまでが内容紹介で、引用多めにしたので著作権的に怒られないか不安ですが、次は個人的な感想もちょっと書いておきたいと思います。

上記の通り、面白いなと思った点は、コミュニケーションにおける「聞き」の役割を強調しているところです。そして、社会実装的なところを志向しているのも面白かったです。

ただ、逆に不満というか難点的なところを挙げると、ちょっとふわっとしすぎかなと思いました。厳密さを欠いているというか...... 基本的に、著者が行った研究・調査と、そこからの感想(主観)がベースになっているように思います。あんまり客観的な数字が提示されないというか...... まあ、客観的な数字ばかりではない、主観的な「語り」やナラティブが大事という話もわかるんですが、ちょっと個人的には、ふわっとしすぎて満足度が低いところがありました。岩波新書にしては、だいぶライト層向けかな〜〜って(しかし、この「岩波にしては」という決めつけが、今日も誰かを苦しめているのかもしれない......)

例えば、同じく言語についての分析をしている、前々回の記事で紹介した椎名美智『させていただくの使い方 日本語の敬語のゆくえ』(角川新書)は、逆にデータたっぷりでゴリゴリの分析だったんですよね。本書(村田本)も、椎名本と同じくポライトネスの話とかしているけど、全体的に分析の緻密さは、椎名本の方が圧倒的なように思います。椎名本は角川だけど、こっちが岩波の方がよかったんじゃないか? という偏見がまた今日も誰かを.......

と、不満を申しましたが! ただですよ!!  若干メタ的なことを言うと、逆にそれが「優しい」コミュニケーションなのかもしれません。本書でも、「やさしい日本語」というのが紹介されていて(22頁)、これはシンプルな単語で構成された、外国人や障害のある人にとっても理解しやすい日本語だそうです。そう考えると、「厳密さに欠ける」「ふわっとしてる」というのも、決して欠点とは限らず、むしろ”優しい”のかもしれない、、、? どうなんでしょう?? まあ結局のところ、読み手・聞き手をどのように想定するか、という話のようにも思います。新書(とりわけ岩波新書を読もうとしている読者にとっては、「優しさ」よりも「厳しさ」に価値があるかもしれません。「優しさだけじゃ生きられない......」ってミスチルも言ってたからな。社会人になってから、前よりミスチルが面白く聴けるようになりました。そんなゴミみたいなまとめでどうでしょうか。

 

2冊目:津野香奈美『パワハラ上司を科学する』

www.chikumashobo.co.jp

優しさだけで生きていたい.......

前節の最後、「優しさだけじゃ生きられない」とミスチルtomorrow never knowsを引用しましたが、しかし、同時に「優しさだけで生きていたい」とも思います。特に、チクチク言葉ばっか言ってる上司が「優しいだけじゃ 生きられないからね!!」とか言ってたら、思わず顔面に噛みついてしまうかもしれません。人間の最後の武器は『歯』ですからね。

そんなわけで、今度は津野香奈美『パワハラ上司を科学する』(2023,ちくま新書の紹介です。こちら、今かなり話題なので、知っている方も多いかもしれません。色んな人が書評やコメントを書いています。僭越ながら、僕も、この場を借りて、感想を書かせていただきます、、、大変恐縮ですが。

 

パワハラ上司にならないために

この本、「今読んでるんだよねー」と言うと、必ず「パワハラに遭ってるのか??」的なことを言われますが、逆です。本書はどちらかというと、パワハラ上司にならないために読む本です。特に、第5章が「パワハラ上司にならないためにはどうすればよいのか」という、そのまんまの章タイトルです。ので、自分が”そっち側”になるとはつゆも考えていない人ほど、本書を読むべきかもしれません(ただ勿論、パワハラを受けた人がどうすべきか・何ができるかについてもたくさん書かれています)

で、そもそもパワハラとは何か? というところで、本書ではまず「改正労働施策総合推進法」を引いて、パワハラの3要素というものを紹介しています。すなわち、

  1. 優越的な関係を背景とした言動であり、
  2. 業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、
  3. 労働者の就業環境が害されるもの

の3つです(本書、17頁)。この3つが全て満たされたとき、「改正労働施策総合推進法」で言うところのパワハラに当たります。これだけだと少しわかりにくいですが、本書では「罵声を浴びせたり人格否定したりする精神的攻撃」や、「相手が不利になるような噂を流したり恥をかかせたりする行為」などとも書かれています(29頁)。あとは単純に暴力の行使なども挙げられますが、こんな具合に、全く適切ではない手段によって相手を傷つけ、労働環境を阻害する行為が該当しています。

で、恐ろしいのは、人格否定や精神攻撃ですね。殴った蹴った、目に激辛カレーを塗ったというのは(あの事件本当に恐ろしいですよね)、端から見ても暴力と判断できるけど(「冗談のつもりだった」とか弁明するのはあるかもだが)、人格否定や精神攻撃は、気付かぬうちにやっていることも大いにあると思います。「厳しいことを言うのも指導の一環だ」とか、「叱咤激励のつもりだった」とかね。これについては言った本人だけでなく、言われた側としてもどっちか判断がつかないこともありそうです。そうなったら結構悲惨。

そんなわけでですね、本書を通じても、「よきコミュニケーションとは何か」について、たくさん考えることが可能です。自覚的にせよ無自覚的にせよ、他人を害したり、自らの特権にふんぞり返ったりしないためにも、よきコミュニケーションとは何か、それを考え是非身につけよう、という話になります。

かつ!! これは単なる僕のこじつけではなくて、本書には、その良きコミュニケーションのためのヒントがたくさんあるなと思いました。そういうところをかいつまんで紹介できればと思います!

 

パワハラ上司とは?

パワハラ上司にならないためには、まず「パワハラ上司とはこういう奴だ」というのを知っておく必要があるでしょう。そんなわけで、本書に沿いつつ、まずは「パワハラ上司とは何か?」について触れておきます。

*ちなみにこれは、就業環境におけるパワハラだけでなく、サークルや研究室など、「自らの優位性を利用した人格毀損行為」が発生しやすい場所にも、当然当てはまるはずです。ので、各自自分事として考えるのが可能であるはず。

で、本書では、パワハラを行う上司を、3つの類型に分けています。それぞれ、リーダーシップの行使の仕方に着目して、「脱線型」「専制型」「放任型」の3つとなっています(100-101頁)。それぞれ簡単に紹介します。

脱線型は、役職は上だけど自分のことしか頭にないタイプで、「傲慢で自分のことしか考えていないので、部下をうまくまとめたり、組織に対して本当の意味で貢献したりできない」人物とされています(166頁)。上司へのゴマすりは惜しまないけど、部下のことは「お荷物」や「競争相手」のように扱う、ちょっと古い漫画に出てくる嫌な部長タイプですね。別に仕事熱心というわけでもないので、部下だけでなく組織にとっても破壊的な最悪のリーダーとされています。

対して、専制型は、むしろ組織の目標達成には貢献したりしているけれど、部下への叱責が激しすぎたり、職権を乱用しがちなタイプの上司です。「典型的なパワハラ上司のリーダーシップ形態」であるとされています(107頁)。自分の期待水準に達しない人に対して「なんでこんなこともできないの?」と言ったり、すぐカッとなったり、自分こそが正しく、反発してくる輩は”間違っている”と見なしがち、という特徴が挙げられています。これの厄介なところとして、耐えかねた部下がパワハラを訴えたとしても、「いやあの人は仕事熱心だから、ちょっと部下にも厳しいところがあるだけだよ」と擁護されがちなことも言われています(110頁)

最後に、放任型は、これはその名の通り「自分でやれ」というタイプで、自分に判断や決断を求められることを避けるタイプの上司とされています。日本ではやっぱり多いらしいですね...... 組織の内部で揉め事が起きていて、自分は結構大変な思いをしているのに、上の人に相談しても何もしてくれない、むしろ「俺を巻き込まんでほしい」的な態度を取られるというのは、僕もけっこう覚えがあります。人生で2回は確実にあった。そしてそのときはツラかった、、、 こういう現状放任型は、責任の所在が曖昧で、誰に解決を求めればいいかも分からず、ただただ自分の孤立感だけが深まっていくので、本当によくないと思います...... 書いてて色々思い出しツラくなってきたぞ! 本当によくない、、、 STOP!! 放任型上司!!!

いずれにせよ、どの類型でも、、、 相手を思いやる気持ちだったり、相手の苦しみに共感する気持ちが欠けているところが共通ですね。上司として権力のある立場に立ったり、組織の目標達成・部下や後輩の育成という大義名分を得たりすると、余計にそうなりがちとも言われています。権限が広がり、お給料も上がり、過去の努力がついに実ったという感覚も生まれるはずなので、「俺は今、正しいことの白の中にいる!!!」とポルナレフばりに思い込んでも、まあ仕方ないっちゃ仕方ないのかもしれません。単に個人の性格の問題だけではなく、パワハラを誘発させやすい「環境」の話も本書では触れられていて(177頁)、色んな要因の元に、我々は「よきコミュニケーション」を失いがちなのだと思います。

 

じゃあどうすんのよ!!

で、もちろん「仕方ないよね」では終わらせず、本書では「そうならないための方策」も論じられています。個人的に、めっちゃ大事だなーと思ったのをいくつか紹介します。

 

① 別の思考オプションを用意する

人は、一度「あいつはだめ」「あいつはできない」「あいつは生意気」等とネガティブな印象を持ってしまうと、無意識のうちにその印象に合致した言動をさらに探してしまい、「やっぱりあいつはできない奴だ」等と決めつけてしまう性質があります。そしてこれが、さらなるイライラの原因になってしまうのです。

それを防ぐために有効なのが、別の思考オプションを予め用意しておくことです。「あの人はだめな人だ」「仕事ができない人だ」と思うことがあったら、次回からこう思うようにして下さい。「あの人はだめなのではない。①(その仕事の)やり方を知らないか、②(その仕事が)苦手なのか、③何か事情があるのだ」と。(209頁)

こちらは、「感情の自己抑制」すなわち怒りの制御として紹介されています。何か怒りの湧くことがあったら、すぐにこの思考オプションに切り替えて、①やり方を知らないのかもしれない、②苦手なのかもしれない、③何か事情があるのかも知れない、と考えるようにすべしということですね。

これは本当に、個人的にも大事だと思います。まず、「思いやりを持ちなさい」とかのふんわり提言よりも、実践として具体的ですね。「こう考えるようにしなさい」というのが明確なので。かつ、経験上、頭に来る事例のうち、実際に多くのことがこの3つのどれかに当てはまるので、真理としても重要であると思います。

僕も以前、図書館でカウンターのバイトをしていたときは、本をぶん投げるように置いていったり、完全無視対応を決め込んでくる利用者に会ったときは、キイィッーーッーーっとなったりしてました。ただ、前者についてはともかく、後者については、留学生でそもそも言葉がよく分かっていないということも多々あり、そのたびに「何か事情があるのかもな」と思うようにしようと反省してました。こういうのは、単に怒りを静めるだけでなく、自分が見ようとしなかった真なる事実に気付けたりもするので、大事な取り組みだなと思いますただ、スプラトゥーンをしている時は我を忘れ、味方を無能集団と罵っています

 

② ちゃんと聴く・黙って聴く

傾聴のスキルを上げるためには、訓練が必要です。まずは部下の話を五分間黙って(相槌だけして)聴く練習をしてみて下さい。その際、実際に時間を計測してみるのがいいでしょう。たった五分間なのに、何度も口出ししたくなったことに驚くはずです。同時に、五分でもかなりの情報が得られることにも気付かれると思います。(217頁)

「聴くスキル」を上げようという話も出ています。これはさっきの村田本と共通の話題ですね。これも本当に、大事だなあと思います。

実際、これは僕も身に覚えがあるのですが、「後輩の話を聞いてあげた」「相談に乗った」と言いつつ、実際はただ自分が持論を披露して気持ちよくなってたってだけのこと、往々にしてあると思います。本当に、これは、よくないね、、、 だからこそ、上記の引用のように、「五分間黙って聞く練習」というのは、非常に大事だなと思いました。かつ、実践として具体的だとも思います。こうやって数字を出すことで、実際にどれだけ自分が「聞」に徹していられたか可視化できるというのは、なるほどなあという感じでした。多分5分は絶対無理だな、、、

 

③ 価値観の違いを想像する

よく「昔はパワハラなんて日常茶飯事だった」「俺たちは耐えてきた」という話を聞きますが、なぜその時代を過ごした人がパワハラに耐えられたのかと言うと、「自分のやりがいや達成感」を最も重視していたからです。......

一方で、今の若い世代はどうでしょうか。......給与アップにも期待できないどころか、大企業でも倒産したり吸収合併されたりすることが珍しくない現在、今勤めている会社が一〇年後も存在しているのかさえ疑問です。上司からのパワハラに耐えた後の未来が全く見えない状況で、耐えられるわけがないのです。(225頁)

3つ目は、互いの価値観の違いを尊重するという....... 「言うは易く行うは難し」ランキング第1位の言葉ですね。ただやっぱり、「俺がこれで成功してきたから、相手もこれで上手くいくはずだ」という考え方には、気をつけなきゃいけないなーと思います。

実際ね、難しいんですよ。僕も研究とかバイトで後輩の面倒を見るときに、遅刻されたりため口きかれたりとかは別に全然気にならないんですけど、「Ctrl A とか Ctrl Z とか難しいことわかんないです〜〜」と言われると、「いやマジでそれは絶対覚えてゼッッタイ覚えといた方が得だから」的な押しつけは、やっていたように思います。それは本当に、いじわるとかではなくて、「覚えた方がいい」という真の気持ちから言っているつもりだけど、でも「マウス操作派」の価値観を尊重していないですよね。マウスカチカチ派のカチ観。すみません、やっぱり全然尊重できてないですね。

本書でも、こういうところはちゃんと警告されていて、

自分に厳しい人、努力をしてきた人、〜すべきという価値観を多く持っている人は、パワハラをするポテンシャルが高いと言えます。そのため、一般的に高学歴だったり、いわゆる「仕事ができる」と言われたりする人であるほど、要注意です。他者にも当然のように努力や成果を求めていないか、自問する必要があります。(149頁)

ここは、完全に、俺のことかーーーっ!!! でした、、、、いや本当に、気をつけなければなですよね....... 警句として心に留めます。

 

④ 相手の関心に対して関心を持つ

最後。これが一番、重要だと感じたところです。本書の終盤では、パワハラ上司にならない方法として、「相手の関心」に対して関心を持つということが挙げられています(250-252頁)

これは「相手に関心を持つ」こととの対比で用いられています。本書の例を引くと、例えば相手が既婚者かどうかを尋ねて、それだけで「この人は家庭があるから、軽めの仕事の方がいいはずだ」と判断するのは、「相手」に対して関心は持っていても、「相手の関心」に対しては関心を持っていない、ということになります。難しいですね。相手のことを気にかけている分、何らかの関心は持ってくれているのだけれど、ただ「個」としては相手を見ていないという、そういう話になります。属性で大雑把に判断しちゃってるということですね。

これと対になるのが、「相手の関心」に対して関心を持つこと。先ほどの例で言えば、相手に家庭があるかどうかだけでなく、「どんなキャリアを希望していますか?」とまで聞くのが、相手の関心に関心を持つということになります。属性だけではなく、主観も考慮するということですね。本書では、こうしたアプローチについて、「相手の関心に寄り添うと、『一人の人間として見てくれている』と伝わりやすい上に、パワハラだ、あるいはマタハラだと訴えられるリスクを減らすことができます」として(251頁)、上司にとってもメリットがあることが指摘されています。

 

まとめ

......で、いきなりまとめなんですが、今回の記事の結論として、個人的には、この「相手の関心に関心を持つ」ということこそ、よきコミュニケーションなのではないかと思います。相手が何を思っているかに寄り添う、ということですからね。相手の関心に対して「聞き」の姿勢を持ち、かつ、自分の価値観を一方的に押しつけない(相手の価値観を聞き出す)という、これまでのまとめ的要素が詰まっているように思います。かつ、日々の実践としても、だいぶ具体的でもありそうです。相手の関心に積極的に耳を傾けるという、割と実践の方向性が見えるやすいものですからね。

これまでも書いてきたように、意外と、人の話を聞いているようで、実際は相手を型にはめて、こっちが一方的に喋っていること、だいぶあるように思います(そしてそれをもって「話を聞いた」ことにしたとか.....)。まあそういうのはやっぱり、「よきコミュニケーション」ではないですよね。優しいコミュニケーションでもないでしょう。特に権力や先輩パワーを持ったときにやりがちな分、気をつけなければと思います。

そんなわけで、今回の結論としては、よいコミュニケーションとは、まずもって「聞き」の姿勢を持つ事であり、かつ、相手の関心に対して関心を持つことである、としたいと思います。言うて新書を2冊読んだだけなので、あくまで「今回の結論」ということで。今後の探究の末に、もっと色々見えてきたりもすると思います。

僕は現在、新卒3ヶ月という立場ですが、「職場」というものに参入して以降、やはり以前より、色んな意味でコミュニケーションが複雑・多様になってきていると感じます。職場内でのコミュニケーションもあれば、職場外(取引先など)とのやり取りもあり、色んなところで権力の磁場を感じる日々。ただそんな中でも、やはり「人間」と接している以上、誰であっても「個」として見る目を忘れたくないなと思いました。こんな無難な結論でいかがでしょうか、、、

 

 

以上

 

過去最高の長さになったよ

というわけで、読書感想会でした。現在、編集画面の文字数カウンターが、11,430を示しております。過去最長の記事となりました。マジで申し訳ない

普通に2冊消化してるんだから、分割すればいいのにな〜と自分でも思っています。ただ書き始めると止まらなくて、いつもこんな感じです。

ちなみに、『パワハラ上司を科学する』ですが、単に僕が面白いと思った部分をピックアップしただけなので、ぜひ皆さんも実際に読んでみてください。本当に色んな事例・提言が盛りだくさんで、きっと刺さるところがあるはずです。僕が紹介してないところに皆さんにとっての真理が眠っているはずなので、是非本当に、読んでみてください(当サイトのアマゾンリンクを使うと僕にも少しPayが入ります、使ってくれたら感謝しかない)。村田本よりはこっちを読んでほしいかなー。

そんなわけで、今日は長くなったので、この辺にしたいと思います。皆さんも、ぜひ、新書を読んでネットの海に感想を投げてみてはいかがでしょうか。実際理解が深まって楽しいよ!! 皆さんが「このステージ」に来ることを、楽しみにしています、、、、