浅瀬でぱちゃぱちゃ日和

全部日記です。大学院でいろいろやってました。今もなんだかんだ大学にいます。

売れてる新書を読んでもの申す老害修士卒の会:山口尚『難しい本を読むためには』読みました

ども!!! 11月にしてはそんなに寒くないな〜〜なんて嘯くこの頃、皆様いかがお過ごしでしょうか。今年の京都はね、今のところそんなに寒くないですね。昨日も今日も最高20℃越えてるらしいです。ただ来週からが寒さ本番らしいので、もう全てが嫌になってきてます。本当に。

久しぶりの更新になりますが、今日は「読書感想会」をやっていきたいと思います。この頃、こういう読書感想、ずっとやっておりませんでした。理由は「もうどんな本を読んでも虚しさが募るだけになったから」というものでしたが、でも新書なら、売れてる新書なら読めるだろうということで、頑張って1冊読み切りました。今日はその感想を書いたりになります。

ちなみに、何の本を読んだかというと、それがこちら。

山口尚『難しい本を読むためには』(2022,ちくまプリマー新書)です。周囲で人気だったので、僕も読んでみました。おもろかったです。地味に著者の山口さんと大学院が一緒でした。

この本、ちくまプリマー新書ということもあり(”プリマー”は入門書という意味らしい)、内容が平易でかなり読みやすかったです。で、参考になる点や面白かった点も多かったので、それらを紹介したりしていきます。

......ちなみに今回の記事のタイトル「売れてる新書を読んでもの申す、老害修士卒の会」ですが、ガチで「もの申す」わけではなく、なんかそういう会があったら面白いなぐらいのやつです。なんというか、修士まで出た人間が、新書(の中でもかなり一般向けのもの)を本気でレビューするというのが、ちょっと小っ恥ずかしいので、、、 それで自虐的なタイトルになってるだけというか。でも、売れてる新書を読んで感想を書くというのは、ブログの更新の形式として非常にやりやすいと思ってるので、今後もやっていけたらと思ってます。

 

売れてる新書を読んでもの申す老害修士卒の会

最初に、今回の記事の構成として、

  1. この本を選んだ理由について
  2. この本の全体をざっくり紹介
  3. 面白かったところ・参考になったところを紹介

という感じで行きたいと思います。あんまり長くはしないつもり(6000字ぐらい)。というわけで、ヒットしてる新書を読んでもの申していくぞ!!!

その前に、この本を読んでみようと思ったきっかけから入りたいと思います(ちょっと感想に関わるので)。

 

1.本書を読もうと思ったきっかけ

いきなり私事になりますが、最近わたくし、高校生に論文の読み方を教えるアルバイトをやっております。週2回、高校生のところに行って、一緒に論文を読んだり、「研究にとってこれが大事なんじゃあ」とイキり散らかすというもの。京都市にはそういうバイトがあります。身バレが怖いのであんまり詳しくは書けないけれど、ともかくそういうことをやっていて、最終的には高校生に「研究報告」をさせるのが目標になります。

で、そこで今回の本のタイトル『難しい本を読むためには』になります。この本、僕としては「難しい本を”読ませる”には」という関心で読み始めました。僕自身はもう、大学に7年間(7年間!!?)もいるわけで、そうするとそれなりに、自分なりの「読み方」は持っていたりします。持ってなかったらお前大学で7年間何してたんだってなりますしね。

ただ、それを高校生などの他人に「教える」となると、一気に話が難しくなります。例えば、自分の読み方が本当に正しい方法なのか(正攻法なのか)とか、なんとなくでやっていることが多すぎて、うまく言語化できなかったりとか、そういう問題です。最終的には「やっていればそのうち分かる!!」とごり押すしかなく、でもそれは半分指導放棄だよなあと思い、で、色々自信がグラついたので、本書を手に取ってみたという感じです。真面目なアルバイターだなあ。

そんなわけで、個人的にはこの本を、人に読み方を教えるときの参考書という位置付けで読み始めました。ただ、自分自身の「読み方」を顧みるという意味でも面白く、そして「人に『読み方』をどう教えるか」という視点で読んでも面白かったので、その辺りの感想を紹介していきたいと思います。

あと、本書からは、単なる読み方だけでなく、同時に「書き方」も学べるなと感じました。それは最後に触れるとして、まずは内容紹介の方に入っていきます(簡単にしか紹介しないよ!)

 

2.本書の全体をざっくり紹介

というわけで内容紹介ですが、この本では本を読むときの正攻法について解説しています。「本を読む」といっても、ただ単に「最後まで読み通す」ということではなく、内容をしっかり理解するための読書術ということですね。批判的な読み方についても説かれているので、クリティカル・リーディング系の本に位置付けられると思います。

で、先ほどこの本では、本を読むときの正攻法が解説されると書きました。この「正攻法」というのが結構大事になってます。著者曰く、あくまで本書で授けるのは、「必勝法」ではなく「正攻法」。ちょっと引用しておきます。

この本において、難しい文章を確実に読み解くことのできる「必勝法」が語られる、と考えてはなりません。なぜならむしろ、そんな「必勝法」は存在しない、というのが本書の積極的な主張のひとつだからです。(p4、強調は引用者つまり僕)

本書は同時に、難しい本を読むことにかんする必勝法は存在しないが「正攻法」は存在する、と指摘するでしょう。......(中略)たしかに「......すればいつでも読める」などの安心の保証を望むことはできませんが(そんな保証は不可能!)、それでも文章の本意を明らかにすることへ向けて着実に一歩ずつ進むような正攻法は存在するのです。必勝法は無いが正攻法はある、というのが本書全体に通底する精神だと言えます。(p5、強調は引用者)

そんなわけで、「こうすれば絶対に読めるよ!」という方法を伝授するのではなく、「せめてこうやって読んでいくのが正攻法だ」というのを解説するものになります。「<難しい本をいつも理解できる確実なやり方>を求めてはなりません」とも言われます(p85)。となると、じゃあその正攻法って何やねん? というのが次の疑問になるはず。

本書によると、その正攻法とは、「グルグル回り」です。は? グルグル回りって何? というと、それは、文章の「全体」と「部分」を行ったり来たりしながら読むこと、となります。先にちょっと引用しておくと、

じつに、文章を読み始めるときには各部分の意味も全体の主張も未知ですが、ひとは部分と全体を「行ったり来たり」することによって徐々に内容を汲み取っていくことができます。そして、≪各部分が何を述べているか≫と≪文章全体が何を言っているか≫とがかっちり噛み合ったとき、ひとはその文章を完全に理解できたことになります。要するに、堂々巡りの中を行ったり来たりして、全体と部分を齟齬なく理解することを目指す、というのが読解の正攻法なのです。(p73-4、強調は引用者)

ここはまあちょっとわかりにくいかもしれません。ざっくり本書の流れを解説します。著者の山口さんは、まずこの本の最初で、難しい文章を理解する上では「キーセンテンス」を押さえるのが大事だと言います。キーセンテンスとは、「文章全体の主張を表現する文」だとされます(p21)。文章読解でこれを押さえるのが大事というのは、まあ異論がないように思います。

ただ問題は、その「キーセンテンス」を、いかに見つけるかということ。で、本書ではそのやり方として、「文章全体の主張を押さえること」が挙げられています(p46)。何がキーセンテンスであるかというのは、その文章全体で何が言いたいかを把握することによって、明らかになるのだと、そういうことです。全体を俯瞰して把握することによって、部分部分の大事な箇所が見えてくるという話ですね。

とはいえ、ここで厄介なのが、次のような矛盾が生じることです。すなわち、「文章全体を理解するためには、その文章のキーセンテンスを押さえなければならないのに、キーセンテンスを押さえるためには、文章全体を理解しなければならない」ということです。ニワトリが先か卵が先か的な問題が生じております。

ただ、著者の山口さんは、これは文章読解には付き物で仕方ないと述べています。結局、内容を理解するということは、端から読んで順番に順番に処理していくということではなく、全体と部分を何度も往復することなのだと。そういうわけで、「全体」と「部分」を行ったり来たりするグルグル回りが正攻法だと言われるわけです。そしてこのグルグル回りを凌駕するような「必勝法」は存在しないとも言われます。

で、本書では、この「グルグル回り概論」をやった後、今度は「方法論」や「実践編」に入っていきます。ただ、ちょっとこのブログでは、この2つは割愛します。少し話すと、方法論では、文章の内容を理解するための方法として、①重要性を指摘すること、②具体例を挙げることの2つが挙げられており、あと実践編では、「読書会」の方法などが解説されていました。

どっちも面白かったし大事だと思うのだけれど、あんまり詳しく書きすぎると著作権侵害にならないか不安なので、とりあえずこの辺にしておきます。皆も、買って確かめよう、この本。↑のリンクからAmazonで買うといいと思う(アソシエイトプログラムで当ブログにちょっとお金が入るので)

 

.....で、何を言いたかったかといえば、本書では読解の正攻法として、「グルグル回り」が挙げられているということでした。より詳細な方法論・実践編の話は、興味ある人はぜひ本書を手に取ってみてください。面白いよ。4日あれば読めると思います(頑張れば2日でいける)。次からは感想に入ります。

 

 

3.感想(面白かったところなど)

というわけで、本書の感想なんだけれど、面白かったです。どれぐらい面白かったかというと、多分これぐらいです(フォントサイズ160%)。こんなんで伝わるのだろうか。無理か。

個人的に、面白ポイントは大きく2つありました。それを順番に書いていこうと思います。

 

その1.「ああ、これでよかったのね」と思える

面白かったところの1つ目は、「ああ、これでよかったのね」と思えるところです。「俺は間違ってなかったんだ.....」という実感を得ることができました。どういうことか。

おそらくこの本、当ブログを読んでいるような聡明な人々ならある程度読書に馴染みのある人なら、「俺もやってるわ」という感想になると思います。「部分」と「全体」を行ったり来たりして、難しい本の主張を読み解いていく、、、それ俺もやってるわ、となりがちだと思います。少なくとも僕はやっていました。

というのも、こうした「難しい本の読み方」は、今まで身につけていたように思います。まあ大学院まで進んでおいて、難しい本が読めなかったら大変困るわけで、いつの間にかこうした「正攻法」は体得していたように感じます。ので、この本で言われている、読解に必勝法がないという話や、結局は地道な努力を積み重ねるしかないという話なんかは、「わかるわ〜〜〜〜」という感じでした。一発で難しい本読めるようになったら本当に苦労しねえからな!!!

そんなわけで、普段から専門書を読んでいるような人間からすれば、本書の内容は「だいたい知ってた」という感じになると思います(ただし、実践編の「読書会」の話は、知らんかったとなる人も多いかも)。で、逆に、ガチの初心者がこの本を読んだとしても、結局行き着くところは「経験者なら大体が経験則で得ているもの」となってしまうので、「この本を読まなければ到達できなかったもの」的なのは、あんまりないかもしれません。多かれ少なかれここに行き着くだろうというか。ので、この本を読んでめちゃくちゃ新しい発見があったとはなりにくいように思います。

ただ!! ただ、ここで言いたいのは、たとえ経験者であっても、自分がやっている読書法をうまく言語化してもらった喜び的なものは、結構得られるように思います。これがここで言いたかったことです。すなわち、新しい知識が得られるというよりは、「ああ、これで間違ってなかったんだなぁ」感が強いということです。

というのも、我々、学部卒でも修士卒でも、他人から本や論文の読み方を教わるということは、マジで滅多に無いです。なんとなく我流で身につけていったという人が多いはず。僕もだいたいそうでした。もちろん、「キーセンテンスを押さえるのが大事だ」ぐらいは言われたかもしれないけど、詳細に読書法を言語化してもらう機会などは、ガチで稀少だと思います。たまにクリティカル・リーディング系の本を読むぐらいで、あとはだいたいでやる感じ。

そんな中で不安になるのが、最初にも書いたけど「本当にこのやり方で合ってるのだろうか」ということですね。俺の読書法は正しいのかと。特に、人に教える段階になるとマジで不安になります。人から「これだよ!」と教わったわけではないからね、、、

そこで、本書の面白かったところになるけれど、まず第一に入門書として、初心者に方法論を授けてくれているところ。そして第二に、経験者に対しても、読書の正攻法というのをキッチリ言語化してくれているところです。「普段からそういうことやってるかも」というのが言語化されている点に、大きな意義があるように感じました。もちろん初心者にとっても「俺はこれからそうすればいいんだな」という方針が得られるので、大変有意義だと思います。この本を参考に「こう読むのが正攻法だぞ!!!」と高校生にイキり散らかしたいと思います。

もちろん、これはクリティカル・リーディング系の本全般に言えることだとは思います。ただ、本書は新書で読みやすく、かつお求めやすいというのもポイントですね。

 

その2.「書く技術」にも通じるところがある

もう一点、面白かったところを挙げると、おそらくこれが「書く技術」にも繋がっているということです。本書はあくまで、難しい本を読む技術だけれど、逆にそれを利用して、わかりやすい文章を書くことにも持って行けるように思いました。

例えば、本書では先ほども書いたとおり、文章理解での「キーセンテンス」の大切さが説かれています。キーセンテンスを押さえることで、文章全体が読み解けるようになるのだと。また、そのために、文章の全体と部分を行ったり来たりすることが大切なのだと説かれます。

で、逆に言えばこれは、キーセンテンスが強く出ている(見つけやすい)文章は、読んだときにわかりやすいということでもあると思います。ダラダラと長く文章を書き、その中でどれが重要な主張なのかわかりにくいものは、確かに読みづらい。ので、各側としても、読み手の気持ちをある程度汲んで、「ほら、これが俺の主張だよ、ほらほらほらぁ!!」としたほうが、読みやすくはなるはず。うざいけど。

「全体」と「部分」を行ったり来たりするという話もそうで、読者は大抵、部分から全体を、そして全体から部分を捉えようとするはず。だからこそ、「構成」の面をはっきりさせるのが大事なように思います。つまり、「『全体』の話としてはこれ、『部分』の話はこれ、そして今はこの≪部分≫の話をしてるの!!」というのを明示することで、読者にとっての読みやすさが上がりそうだということ。今なんの話してるの?? という文章は読んでて苦痛だと常々思っているので、やっぱり書く側としても、「全体と部分の関係をわかりやすくしておこう」というのは大事なように思います。

そしてなんですが、本書『難しい本を読むためには』ですが、バチボコに読みやすかったです。なんでこの本、こんなに読みやすいのかと言えば、著者の山口さんが、ことある毎に「今はこの話をしてるよ!!」というのを明示してくれるからだと思います。必ず、章や節が変わる度に、「これまでは○○の話をしてきたけど、これからは××の話をするよ」というのを確認してくれています。それでいて、キーセンテンスも自ら積極的に示してくれていてわかりやすい。とにかくこの本、本当に読みやすかったです。

なぜ読みやすいかといえば、やはり著者が「読むための技術」を理解して、それを「書くための技術」にも応用させているからだと思います。先ほど、ある程度の経験者からすれば本書の内容は大体知っているものと書いたけれど、このあたりの「書く技術」への応用は、経験者の皆さんもしっかり学びが多いはず。それが面白ポイントの2つ目でした。

あと、これを言ったら元も子もないんだけれど、「難しい本」、我々、最終手段として逃げるができてしまうとも思います。「何言ってるか分かんねえから読まねえ」というもの。もちろん、本書は、そういう時にもちゃんと読めるように、というものなんだけれど、最終逃げるという選択肢は常にあるように思います。僕も逃げてる本がたくさんある(多分これからも逃げ続ける)。

ただ、「分かりやすい文章を書く」ということについては、「難しい本を読む」ことより圧倒的に避けられないフェーズが多いように思います(そんなことない?)。そんなわけで、書く技術も学べるというのは、本書の面白いところでした。

*ただし、この著者は「おわりに」で、書くという営みの「自由さ」をとても強調しているので、この本から「書く技術」の話に持っていくのは、僕自身の性癖が出ているだけです。それは注意。

 

というわけで、まとめです。

 

 

◎この記事で言いたかったこと

 

新書『難しい本を読むためには』は、初学者向けに見えて、実は経験者が読んでも学びが多い!!

 

 

 

ここまで露骨にしなくてもよかったかもしれませんね。

 

 

 

以上!!!

というわけで、いかがだったでしょうか、第1回「売れてる新書を読んで物申す老害修士卒の会」。そんなにもの申さなかったけど、「修士卒です^^」的な目線で語ったところに、老害観はあったのではないでしょうか。無い? 無いなら無いでいいです。

本当はもうちょっと、引用多めに感想もたくさん書きたかったんだけれど、長くなりがちなのでやめました。ただ、今回扱えなかった「読書会」の話などは、先日出版された児玉聡『オックスフォード哲学者奇行』などと絡めて、いつか書いてみたいなあと思ってます。記事タイトルは「読書会は陰キャオタクの集まりなのか?」とかどうでしょうか。

 

↑オックスフォードの哲学者の読書会・研究会の話がたくさん載ってます。

 

総括ですが、「売れてる新書を読んで感想を書く」というのは、やりやすいし、自分のタメにもなるので、また近いうちにやっていこうと思います。次は今本当に売れてる本『聞く技術、聞いてもらう技術』ちくま新書)でやりたいなーと思ってます。来週か再来週にはやるかも。俺の話、みんなに聞いて欲しいしな。

そんなわけで、今日は以上です。 皆も新書を読んで、どや顔でもの申してみよう。