浅瀬でぱちゃぱちゃ日和

全部日記です。大学院でいろいろやってました。今もなんだかんだ大学にいます。

なぜ我々はいい子なのにアンパンマンではないのか:金間大介『先生、どうか皆の前でほめないで下さい』読みました

ども!!  新年度を迎えたこの頃、皆さんいかがお過ごしでしょうか。もう新生活には慣れましたか。僕はといえば、新しい所属先に顔を出したり、健康診断を受けたり、出さなければならない書類を1週間ぐらい放置したりと、なかなか元気に頑張っています。

で、昨年度は学生だったけど、今はもう社会人だ、という方もいるかもしれません。僕はまだ学生だけどな。そういう方も、何卒、弊ブログ、今年度もよろしくお願いします。まだ繋がりが断絶していないことを祈っています。

 

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最近は桜がきれいなのだが、天気のいい写真がなかった。

 

目立ちたくない症候群

僕は目立ったり注目されたりするのがとにかく苦手なんですが、今日はその話題。

この頃、少し更新が途絶えていましたが、その理由は「以前より閲覧者が増えたっぽい」というところにあります。なぜそれで更新が途絶えるのかというと、怖いからです。目立ったり注目されたりすることが苦手で、基本的に閲覧者の急な増加は「恐怖」を感じるイベントになります。そういうことで圧を感じていたのもあり、この頃少し離れてました(大抵は杞憂というか勘違いなのだが)

目立つのが嫌ならなんでブログやってんの? というのは、本当にその通りで、ただ厄介なことに、僕の中には「承認欲求」という欲があります。目立ちたくはないけど、適度に承認は得たい。なんだそのめんどくさい生き物。

ただこれ、どうも僕個人に特有の心象ではなく、割と広く今の若者に見られるものっぽいです。例えば、褒められることそれ自体が嫌いなわけではないけれど、「皆の前で」褒められるのはとても嫌だとか。

そういうことを解説したのが、こちらの金間大介『先生、どうか皆の前でほめないで下さい』という本。この前の3月31日に出版されたばかりの新刊です。

 

金間大介『先生、どうか皆の前でほめないで下さい —いい子症候群の若者たち』(2020年、東洋経済新報社)

 

この本、この前読み終わりましたが、めちゃくちゃ面白かったです。どれくらい面白かったかというと、これぐらい面白かったです。フォントサイズ420pt分の面白さ。

で、今日はこの本の紹介&感想になります。この本、本当に、俺をモデルにして書かれたのか? と思うぐらい、共感&納得できるところが多かったです。著者の金間先生は実はスタンド『ヘブンズ・ドアー』の使い手で、僕の中身を覗いた後記憶を消して解放したのかもしれません。あのスタンドほぼ無敵だからな。

そんなわけで、今日はざっくり内容を紹介したり、感想を書いてみたりになります。

 

「いい子症候群」とは

この本は、おそらくジャンルとしては若者論。大学教授から見た、現代の若者(大学生)の心理についての一冊です。

著者の金間先生は、「モチベーション」の研究をしている研究者。で、タイトルはちょっと煽ってきてるけど、何もおじさんによる上から目線の説教というわけではなく、しっかり著者の研究やその他データに基づいてた、プレアカデミックな内容になっています。可能な限りデータに基づいた議論を行っているのが特徴(そこがよい)。

で、どんな話がされるかというと、今の若者の心理として、とにかく「目立ちたくない」「突出したくない」という心理がありそうだ、という話がされてます。今の若者、誰しもが、できるだけ横並びでいたい、周りと同じでいたいと思っている。要求さえされればちゃんと動くし、指示されたことはちゃんとこなすが、そうじゃなければ動かない。かといってポンコツには見えず、常に素直でまじめなオーラを放っている.......

で、著者はこうした若者の特徴を「いい子症候群」と称して、その分析を行っています(ちなみに、「いい子症候群」という言葉自体は、以前に尾木ママが使っていたとかなんとか。本書だと著者の造語のように使われているが、それと関係するのかどうかは不明)

いい子症候群は「症候群」と言うぐらいだから、いろいろな症状の寄せ集めとなっている。色んな特徴が挙げられるけれど、根本的なものとしては2つ、周囲から目立つのをとにかく恐れることと、自分自身に対して圧倒的に自信がないことがあると思う。

この本の帯にある「いい子症候群」の例を列挙してみると、

 

  • とにかく自分に自信がない
  • 例題が示されないと何もできない
  • 言われた以上のことはしない
  • 自分の意見は言わない
  • 自己肯定感が低い
  • 評価されるのが怖い
  • 打たれ弱い
  • 競争したくない
  • 目立つことが恐怖
  • 傷つく/傷つけることに敏感
  • コネ重視
  • 「浮いたらどうしよう」
  • 自分で何かを決められない
  • 100人のうちの1人でいたい
  • 上司からの質問を同期に相談する(目の前で上司が自分に質問しているのに、とりあえず横を向いて隣にいる同期に相談する)
  • 悪い報告はギリギリまでしない
  • 学歴志向が強い
  • 地方公務員が一番
  • 多数派でいたい
  • 横並び主義

 

さて、皆はいくつ当てはまったかな? 僕は15ぐらいかな、、、特に「評価されるのが怖い」「競争したくない」「目立つことが恐怖」「とにかく自分に自信がない」あたりは、ばっちし当てはまっています。逆に「自分の意見を言わない」「例題が示されないと何もできない」「悪い報告はギリギリまでしない」とかは、しないように気を付けてはいるのであんまり当てはまらないかな。でもその心理は非常に分かる。

で、この他にも、「自己紹介でトップバッターになるのがめちゃくちゃ嫌」とか、「”私の意見”としてではなく、”皆で話し合った意見”として出す」とかの例があったけど、それもわかるな〜〜〜って感じでした。自分がそう、というのもあるけど、それ以上に、バイト先で後輩に指導するときとかに、こういうことをよく感じていた。「何か質問ある?」って尋ねても、絶対に出てこない。そうじゃなくて、「ここ、難しいと思ったけど、理解追いついた?」って感じで聞くと、ようやく出てくる。そういう風に、「例や道筋を示さないと固まってしまう」というのは、本当にあるあるだな〜〜と思いました。

あと、もうひとつ大きな特徴として、いい子症候群、「やりたいことがない」というのがある。やれと言われればやるけれど、自分自身で目標を立てるのは苦手。人生の目標とかを聞かれても、「いや、そんな大それたものはないです。ただ安定した毎日が送られれば...... 吉良吉影のように」と答えがち(殺人鬼ではないが)

目標はないと答えつつ、ただ「安定」なり普通の人生を過ごせればよいとするのも、いい子症候群の特徴であるらしい。「人生の目標」とかそんな意識高いものはないから、無理せず働いて、それなりの生活さえ送られればよいんだよ、とか。その関連で言うと、就活の面接で「やりたいことは何ですか」と聞かれたら、とりあえず耳あたりのよい「社会貢献」などを答えがち、というのもあるあるらしい。面接官からすると、「なんだこいつ...... 主体性がまるっと欠如しているというか、そもそもなんか掴み所がねえわ」となっちゃうとか。

 

 

.......これ、どっかで聞いたことある話じゃないですか? どっかでこう、「就活で『人生の目標」とか聞かれても、そんなものないから困るわ」って語ってた人間がいたようないなかったような、、、、 何かそういうのを「カスの就活観」と呼んでいた人がいたような気がしなくもないです。気のせいかな?

はい。 そんなわけで、僕もばっちし「いい子症候群」の症状に当てはまっているというわけです。冒頭で語った、「ブログで目立つのが怖い」というのもその一例ですね。

 

なぜ僕はアンパンマンではないのか。。。

ちなみにこの本、非常にざっくばらんな文体で書かれていて、非常に読みやすかったです。ユーモアも散りばめられていて、その辺も面白かった。

その中で、アンパンマンについての話がありました。これは非常に面白いと感じたため、今回タイトルにも入れてます。まるっと引用すると、

 

突然の仮定で恐縮だが、あなたはアンパンマンだとしよう。そして街中で困っている人に遭遇したとしよう。あなたはアンパンマンなので当然声をかけるだろう。「どうしたの?」と。

再び突然の仮定で大変恐縮だが、あなたは普通の日本人だとしよう。そして街中で困っている人に遭遇したとしよう。あなたは声をかけるだろうか?

もしその答えがNOだとしたら、あなたとアンパンマンの違いはどこにあるのだろうか?(本書p211-212)

 

アンパンマンなら困っている人を即座に助けるだろうけど、我々は多分、真っ先に人の目を気にする。ここは本当に俺が行くべきなのかどうかとか、しばらく様子見して誰も行かなければ行こうかなとか。あと仮に助けたとしても、その後で注目されたりするのは極端に嫌うと思う。それこそ「大したことはしてません」とか、「皆の前でほめないで」とか、、、

で、このアンパンマンの話の文脈として、人助けについての国際的調査がある。World Giving Index(WGI:世界寄付指数)の調査で、「あなたはこの1ヶ月で、助けを必要としている見知らぬ人を助けましたか?」という質問が行われた。対象は日本を含む125カ国。

その結果、この質問への答えは、日本は125カ国中、125位で最下位だったらしい。最下位ってすごいね。我々はとにかく、道端で出会った見知らぬ人を助けない。寄付やボランティアの指標はここまで低くなかったらしいけど、「見知らぬ人を助ける」だけはめちゃくちゃ低い。ちなみに、このデータは↓のURLからダウンロードできる。めっちゃ重いけど。

www.cafonline.org

これを読んだときの僕の感想は「なぜ僕はアンパンマンではないのか......」でした。確かにアンパンマンは架空の存在で、かつ僕は名のある個人でしかも現代社会に生きているから、そこは明確に違うのだけれど、それでも「目立つのが嫌」とか言わず、自分の意志で善行を成し遂げる力が欲しいなあと思いました。アンパンマンのように、ちゃんと堂々とやる、そういう風になりたいものですね、、、

そんなわけで、今年度の目標はそのように、「目立つことを恐れない」「アンパンマンになる」にしたいと思います。以前だったら「アンパンマンになりたがる24歳(実質無職)」とか言っていたけれど、今年度はそういう自虐とかも抑えていきたいところ。マジでそういうのが大事。このブログに寄せられる感想も、「卑下しすぎ」「もっと自信持て」がいちばん多いからね、、、 気を付けていきます。

 

いい子症候群を抜け出すには

ちなみにこの本では、8章までが「いい子症候群の実例紹介」で、9章・10章が、そこから先の提言という構成になっています。比重として少なめだけど、ちゃんと対策なども含まれている。

で、本書の第一の提言は、若者云々と言う前に、まずは大人が変わろうというもの。この本のメインターゲットは一応、「30歳以上の社会人やマネジャー経験のある層」に想定されているらしい(p229)。そもそもが大人向けに書かれているのもあり、まずはそこへの提言となっている。

ここで著者が主張しているのは、若者の競争意識が低下し、横にならえになってしまったのは、今の日本社会がそのようになっているから、というもの。引用すると、「若者が変化を好まず、挑戦を避け、守り一辺倒の内向き志向となっているのは、若者が育ってきた日本社会がそうだからだ」(p226)。まあ確かに、自分自身でそういう価値観を選んだというよりは、親の意見を聞いてたら自然とそうなったとか、不安定な日本社会での防衛本能としてそうせざるを得ないとか、そっちの説明がしっくりは来ると思う。ので、まずは大人に責任があるのだから、大人の方こそ、しっかりリスクを取っていく姿勢を見せ、目立つのを恐れないようにしよう、というのが言われている。

ただ当然、大人だけでなく、今の若者に向けた提言もある(若者も十分「大人」ではあるのだが)。色々あるので箇条書きにすると、

 

  • 「競争のない平穏な生活」を”普通”だと捉えているお前、いい加減夢から覚めろ。仕事に”普通”なんてないし、他人に生殺与奪の権を握らせるな。「安定」なんてすぐ崩れるぞ。

  • 「空気」を作る側から抜け出そう。あなたもどこかで、無意識に同調圧力に加担してるはずだから、そういうことに自覚的になろう。

  • 他人のネガティブな視線は、結局はあなたの妄想である。目立ったら嫌われるなどと考えすぎないように。

  • 目的を持った学習を行おう。単に「役に立つから」「皆がやっているから」という理由ではなく、自分自身で目的を決めた学習をやっていくべき。そのことが自分を強くするよ。

  • 自分の好きなもの、「やっぱり俺はこれが好きだ」というものを見つけ、それにしっかり向き合おう。そういうのが見つからない場合は、やりたい「コト」だけでなく、やりたい「場所」や「ヒト」にも注目してみるべし。

  • あとは「質問力」と「メモを取る力」を鍛えよう。方法は色々あり。そういうのが成長に繋がる。

  • そして他者との比較ではなく、自分との比較で成長を実感すべし。意識的に自らの成長を自覚するようにしよう。

 

などなど。並べてみると結構多いね。

で、これはちょっと批判的な内容になるけれど、本書はいい子症候群の「分析」のところは、しっかりデータが示されていて説得的なんだけれど、このあたりの方の「提言・対処法」のあたりは、どうしても自己啓発チックというか、「心がけ」レベルでのアドバイスが多くなっている。前半だけで十分面白いから、それが致命的な欠点というわけではないのだけれど、対処法については「まだまだこれから開拓されていくのかな」という感じ。特に質問力・メモを取る力・学習の目的のあたりは、僕は結構意識しているつもりだけど、それでもいい子症候群の真っ只中ですからね。

あと、著者はここでいくつかアドバイスを出しているわけだけど、こういう風に「こうした方がいい」というのを示すのがどれだけ効果的か、という疑問もあり。本書でも指摘されている通り、我々いい子症候群、言われたとおりに真似するのは得意である。だから、目的を持った学習にしろ、質問力やメモを取る力にしろ、その通りに実践することはできても、その先で主体性の回復なり自己肯定感の獲得なりに繋げられるかが疑問だった。やれって言われたことはできるので、その先で「言われたとおりにやったけど?」から脱却できるかどうか。

......ちなみに、なぜいい子症候群を脱しなければならないのかの理由として、著者は、そのままだと「他人に支配されるから」(意訳)ということを挙げている(p230)。いい子症候群の若者は、自分で決定することを恐れ、基本的には他人の指示に従うし、そのことで、「平穏」なり「安定」が得られると信じている。だが、我々の上に立つ者が常に尊敬できる人物とは限らない。やべえやつなんて世の中にいくらでもいる。そういう時に、自律や主体性を失っていては、「安定した生活」「平穏」なんて保てるわけがないだろう、そしてそうなってからでは遅いのである、というのが著者の見解。だからいい子症候群は脱されるべきとされるのだが、これは僕もそう思います。他者に委ねる方が楽でも、その他者がいい奴とは限らないので、自律ってやっぱ大事だなと思います。

 

「やりたいことがない」は個性か否か

最後に、個人的に大事だな〜〜と感じたことを1つ。それは、こうした「目立ちたくない」「自分に自信がない」といった心情が、個性と言うよりは症状に近いと捉えられることですね。これは大事かなと思いました。

僕がそうだったけど、目立ちたくないだとか、あるいはやりたいことがないだとかが、その人の個性やアイデンティティとして捉えられると、それは矯正が難しくなってしまう。個性は人それぞれ異なっていてよいので。

ただ、これが「症状」なり、「時代の病理」として捉えられるならば、そこを改善していこうという機運が高まるんじゃないかと思う。個人的に、そのことが大事だと感じました。目立つのを恐れる、それはあなたの「個性」じゃなくて、広く見られる症状なんだよ、そしてそれは改善できるし、我々はアンパンマンになれるんだというのを自覚するのが、大事だと思いました。それがいい子症候群を抜け出すための第一歩かな。

ちなみにいい子症候群、僕は「欠点」だと思うけど、そこは意見が分かれうるかもしれません。「あくまで個性の範疇だ」とか、「これは時代に合わせた自己防衛なのだから、それ自体を治すのは誤りだ」とか、「だからむしろ、社会の側がそれに合わせて変わっていくべきだ」という意見も、全然あると思います。SNSとかでも何でも、我々の使用感に合わせて変化してきてるしね。いい子症候群の何がそんなに問題なのかは、今一度議論してみるべきかもしれません。

 

 

以上!!!!!

今日も長くなりましたが、こんな感じです。こんな感じで、今年度も頑張っていきます。

 

次回は、すっかり自信をなくしていた「法哲学覚え書き」シリーズ再開かな。自分に自信を持ってやっていくんだよぉおお!!!!