浅瀬でぱちゃぱちゃ日和

全部日記です。大学院でいろいろやってました。今もなんだかんだ大学にいます。

性の暗さとその面白さ:「亜獣譚」読んでます

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これ、何かわかりますか?

 

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 正解はカレーでした。

 

カレーはカレーでもベジカレー。久しぶりに自炊したので、ちょっと舞い上がっている。

 

それはさておき 

亜獣譚(1) (裏少年サンデーコミックス)

亜獣譚(1) (裏少年サンデーコミックス)

 

今日は漫画「亜獣譚」の話。今読んでるので、熱い思いを語ります。

前から気になっていた漫画「亜獣譚あじゅうたん)」、今日ちょっとだけ読みました。U-NEXTにあったので、ポイント使って3巻まで読んでみた。 就活と料理で疲れてたので、その癒やし的に。

【あらすじ】
「害獣病」という、人が獣になってしまう病気が蔓延した世界。獣と化した人間は「害獣」と呼ばれ、理性をなくし、人に危害を及ぼすようにもなる。病気になる原因は割とはっきりしているので、それなりに対策や対処は可能。なのだが、いったん害獣化すると、それはもう殺すしかなくなる。
で、主人公は害獣狩りを生業とする青年。結構サイコパス気質で、害獣とわかれば赤ん坊だろうと容赦なく殺す。のだが、ある日害獣を庇う少年と、その姉に遭遇し....... という感じです。

 

これがですね、、、

 

 

めちゃくちゃに面白い!!

 

思わずフォントサイズが540pになりました。それぐらいには面白いです。本当に。

 

主題は"性"

というのもこの漫画、「性」が明確なテーマとなっている。性というのは性愛・性欲・情愛といったものなどなど。これらのうち、特に「肉」的なものというか、肌と肌の触合いに問題意識が置かれていると思う。

「害獣病」という病について、実はこの病気、感染ルートがはっきりしている。一つが性行為で、もう一つが母子感染。病原菌を持つ人間と肉体関係を持てば感染するし、母親が害獣病の場合には、子どもは害獣の姿で生まれてくる。一応、発症しても薬さえ飲み続ければ人の姿は保てるのだが、その代わり去勢手術を命じられ、二度と性行為はできなくなる。

で、これ、「害獣」というファンタジー要素はあるけれど、要するに性病なんですよね。虚構の設定ではあるのだけれど、かなり現実的というか、単なる架空の病気というわけではない。しかも性というのは、しばしば人間の本能に結びつけられたり、いわゆる人の「獣的な」部分と表されたりする。獣害病にかかった人間は禁欲を強いられ、例のおじさんではないけれど、性の悦びを味わえなくなる。そのことのつらさ、絶望感だったり、相手に恋愛感情を向けただけで罪とされる悲しみ、人間の内奥に眠る獣性や、愛し愛されることの喜びだったりが描かれております。まだ3巻までしか読んでおらんけど、めちゃくちゃに面白い。おもしれえおもしれえ言い過ぎて隣室から壁ドンラッシュが来るほど面白い。

 

性の暗さ

あなたは...(中略)分からないかもしれませんね
相手の肌に  深く深く...浸食(はい)って
骨まで触れることが...
愛であると

この漫画、個人的には、性の暗澹たる側面を描いているのが、おもしろポイントです。

最近はフェミニズム系の本ばっか読んでいたので、男性の抱く性欲について、どうにもマイナス面がばかりに目が行っている。ミソジニーの表れだとか、性犯罪の元凶であるとか(これは実際にそう)、女性への支配を正当化しているとか、などなど。よい方に語られるとしても、何か爽快感に満ちているというか、「夫婦の健全な性生活は喜びをもたらします!」という具合に、なんか底抜けに明るい場合が多い。

ただ、性欲のドロドロとした部分というか、性の暗澹たる側面も、我々は忘れてはならないと思う。忘れてはならないというか、それはおそらく人間の本性に根ざしたところにあるもので、忘れようとしても必ず出てくるもののはず。性の欲求は醜く、浅ましく、動物的であるのだが、しかし悦びに満ちている...... 性欲のこうした描き方、僕は結構好きなのだけれど、こういう語られ方って、現状ますますしにくくなってるようにも思う。

というのも、「亜獣譚」を読んでいると、フェミニズム的にはちょっとアウトだろうなという描写を感じるため。代表格は「レイプから始まる恋愛」で、性行為を強いられた女性が、加害者である男性に恋愛感情を抱くというもの。あり得ねえだろと思われるかもしれないが、実はこれは古今東西幅広く見られるプロットであるらしい。Netflixのドキュメンタリー「性をダイジェスト」でも扱われていた(第1回放送参照)。

テレビや映画でこの妄想はよく見ます。活発で無防備な女性がレイプされ、相手と恋に落ちる。…タイ産メロドラマの8割がこの方式です。一般的なジャンルの呼び方は、”スラップ(平手打ち)とキス”。

例として、ゲームオブスローンズやフィフティ・シェイズ・オブ・グレイなどが挙げられている。歴史的な作品を見ても、いろいろあるらしい。で、「亜獣譚」にも、そのものずばりではないけれど、これに似た筋書きがあるこういう視点、今のフェミニズムからすれば到底許されないはずなので、怒りそうな人もいそうだなと思う。性暴力を肯定しているように捉えられなくもないので。*1「男性の支配欲」というのは、あくまで批判されるべきものであって、人間的な美であるとか、我々の本性・自然の姿のように描くのは間違っているという、そういう気風は高まっているはず。

「あなたは...(中略)分からないかもしれませんね」という上に挙げた引用、僕はこれすごい好きなのだが、アウトっぽさはある。というのも、まさしく性行為を強要する最中に男が吐くセリフであるので。レイプまがいのことをしながら相手に愛を説くという、結構やべえことをやってしまっており、見る人が見れば確実に怒る。

 

追記:著者のTwitterを見ると、「こういうのをやべえと思える人間が増えることが理想」と言っていたので、その辺は意図的でありました。ちゃんと全巻読んでから、色々書こうと思います。

 

性欲は生欲?

というわけで「亜獣譚」、ドロドロの性描写を含むこともあり、フェミニズムとかの視点からすれば、結構問題作かもしれません。そうでもないのかもしれないが、最近フェミニズム勉強している限りはそんな風に感じる。仮に、ジェンダーへの問題意識が強めの知り合いにに勧めたら、読むのしんどいとか言われそうである。かといってそこらの人に勧めても、何この漫画きしょいとかで片付けられてしまいそうだし、、、 個人的にはぶっささりだったのだが、難しいところではある。

最後にちょっとだけ、性欲描写の規制論について(ほんと簡単に)。

蒲団・重右衛門の最後 (新潮文庫)

蒲団・重右衛門の最後 (新潮文庫)

 

僕のフェイヴァリットな小説の一つに、田山花袋『蒲団』がある。明治期に書かれた小説で、これも結構、ヤバい本扱いされている。女学生の弟子に恋をした中年男性の情欲を赤裸々に描写した一冊。青空文庫で読める。

この本、主人公(著者)の性欲がありのままに描かれているのだが、当時の文壇では、それってどうなの? という議論が沸き起こったらしい。自然主義の小説が、いくら私的生活をそのままに描くものだからといって、性的感情を包み隠さず出してしまうのはいかがなものか。それは小説として、むしろ下等なものに成り下がっているのではないか、などなど。

これについて、自然主義の側からは、まず「性欲は人間の事実である」という反論が出された。いくら性欲や肉欲が卑しいものと見なされていようと、それは人間の本能的な衝動であり、また我々の現実の姿でもある。そうである以上、そこに美醜の概念はない。また、現実の事実をありのままに描くことは、自然主義文学の使命でもある。それゆえ、本性に根ざした事実である性欲を描くことは、人の暗黒面を描く自然主義文学の仕事でもあり、許容されることが主張された。

ただ、そこには一応の条件は付された。それは当の性欲描写が「人間の事実」を描くために必要不可欠なものであり、単に肉欲を喚起させることを目的としたものではない、ということである。書き手の態度の問題でもあり、作者が不誠実な気持ちでこれを書いているのであれば、それはよろしくない。赤裸々な性描写は、あくまで人生の真実に触れるもの、生の欲、つまり「生欲」として為されなければならず、低俗なエロ描写はよくないっすよねとのこと。

(この辺は全部、光石亜由美(1999)「<性>的現象としての文学 : 性欲描写論争と田山花袋「蒲団」」『日本文学』 48巻、6号, 28-38頁を参照。夏にこの話題でレポートを書いたので、今回も引っ張り出してみた。詳しくはこちらから読める。)

ここらの「性欲/生欲」というのは、言葉遊びに近いかもしれないが、それでも興味深い視点だと思います。「亜獣譚」も、結構露骨な性描写があるのだけれど、それはもちろん、これがエロ漫画ということではなく、あくまで人間の「生」を描いているのだということ。それが面白さの源泉になっているし、実際物語としておもしろい。この「性」と「生」の繋がりが、性欲表現規制論に対してどこまで有効な反論かは分からないがフェミニズムからすれば、そうやって男性支配的な世界が作られてきたとかは言えるはず)、まあ一つの視点ではあると思う。

 

 

以上

包み隠さず申しますと、僕はこの辺の「性」にまつわるフィクションが好きでして、、、 田山花袋の『蒲団』もそうだし、あと一番好きな小説として、三木卓の『炎に追われて』というのがある。

ミッドワイフの家

ミッドワイフの家

  • 作者:卓, 三木
  • 発売日: 2018/11/02
  • メディア: 単行本
 

今日はすでにたくさん書いたので、もうこの本の説明はしないけれど、これもマジで、よい。読む本に飢えているという人は是非読んでみてください。ただし、これも性の暗澹たる側面が主題になっています。

 

www.netflix.com

あとはNetflixアニメ、ビッグマウスも赤裸々で良いですね。かなり下劣なシーンが多いけど、僕は好きです。笑えるので。

今日はそんな感じです。絶対に万人受けする作品とは言えないけど、、、それでも興味持った人、ぜひ『亜獣譚』読んでみてください。僕もまだ全部読んでないのだけれど、衝動的に感想を書いてしまった。明後日Amazonから全巻届くので、読みます。

 

追記:昨日(3月23日)全巻読みました。ここで書いたことは、かなり1~2巻に偏った感想になっています。全体としてみれば、この辺はそんなに中心的テーマでもなかった。

 

 

 

*1:もちろん、亜獣譚では強姦のもたらす悲惨も描かれているので、ここだけ切り取るのは全くフェアじゃないんですが